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2007年8月22日 (水曜日)

【小説】不揃いの花壇

今ではビンテージの車好きぐらいしか乗らないような、古い型のフォードトラックが、この田舎町には不釣合いなほど瀟洒なショッピングモールの入り口にあるアーケードの下に止まった。

ドアからは30歳も半ばと思われる男が大きなポケットのついたブルーのエプロンをして降りてきた。

中肉中背、無精ひげこそ生えていないものの、長くは無いがセットをし忘れたかのようなボサボサの髪、踵を潰したスニーカーに、アイロンのかかっていないよれよれのシャツ、男やもめも容易に想像が出来る。

男はショッピングモールから出てきたスーツの男性と目が合うと小さく会釈をし、そそくさと何かの準備を始めた。

車の荷台からスティール製の細いパイプをいくつか取り出し、荷台の四隅に立てるとキャンバス生地の大きな布を取り出した。

フォードトラックは改造されていて、日よけのテントを広げ、折りたたみ式のひな壇を設置して、荷台の横を開けばいくつかの商品を並べられる移動店舗になっていた。

「親父に譲ってもらったこのオンボロも、早いとこ買い替えないとなぁ」

今日も男は、このショッピングモールの入り口を行き交う人々を横目で見ながら、折りたたみ式のイスに座りコミック雑誌を広げ、売る気が有るのか無いのか分からない商売で、花を売っていた。

それでも、花はいくらかは売れていた、しかし、用意した全てが売り切れることは無かった。

季節ごとの定番の花達はそれなりに売れていくのだが、華やかな街のショップで見かけるようなオシャレな鉢植えや、流行の花などは仕入れ値も高く、男の店では取り扱いが難しいため、どうしても流行遅れのものや、定番のものしか並べられないのである。

夕方の6時を知らせる教会の鐘の音が響く頃、ショッピングモールと共に男も店閉まいを始める。

人口のそれほど多くないこの田舎町唯一のショッピングモールは夕方の5時半を過ぎると極端に客足も遠のくのだった。

 

「ふわあぁあー」

男は折りたたみ式のイスから立ち上がり、大きなあくびと共に伸びをして、ふと視線を落とした。

駐車したフォードトラックの脇、男の視線の先にある背の低い小さな花壇の花は枯れ、雑草がびっしりと生えていた。

「やれやれ、建物はあんなに美しいのに小さな花壇は無視かい?手入れをしていないのだなぁ」

今朝、会釈をしたスーツの男の顔を思い浮かべながら男は溜め息をついた。

男はその場にしゃがみ込むと、手近な雑草を取り除いていく。

そして、そこに売れ残りの花を植えていった。

「摘む時か、運ぶ途中で花びらを傷付けてしまったんだね・・・ごめんよ」

そんな独り言を呟きながら、数株を植え終わった頃、男の後ろから女性の声が聞こえた。

「お花を植えているのですか?」

花屋が自前の商品を植えているのを奇妙に感じたのだろうか、男の背後から不思議そうな顔をして男の作業を一人の女性が覗きこんでいた。

「あ、あぁ、売れ残りのものを植えていました。あまりにもこの花壇が寂しいことになっていたから」

「良いのではないですか、お花があると気持ちが和みますものね」

白いワンピースからすらりと伸びた手足を見せるブロンドヘアーの美しい彼女の笑顔に、男も無言で慣れない笑顔を返した。

その日、花売りの男は帰りの車中、夜の帳が下りた田舎道を楽しげに口笛をふきながら運転して帰った。

春のあたたかな夜だった。

 

それからというもの、もうそろそろ店をたたむ時間だなと考える夕暮れ時にいつもこのショッピングモールに現れる彼女を、花屋の男は目で追ってしまうのが習慣となっていた。

時折目が合えば軽く会釈を交わすぐらいの間柄にはなっていたのだが、あの日以来、花を買ってもらう時の決めセリフ「ありがとうございました、お庭やお部屋を花でいっぱいにしてください。またのご利用お待ちしています」以外は言葉を交わすことは無かった。

「キレイな女性(ひと)だな、あんな子と一緒に花を売れたら毎日が楽しいだろうな・・・いやいや、俺みたいな男にはまさに高嶺の花だな」

そして、あの日以来毎日のように売れ残りの花を少しずつ小さな花壇に植えていった。

いつしかその小さな花壇には、流行から外れてしまっている花や、花びらに傷のあるものなど、なんとも不揃いな花たちが賑わう花壇になっていた。

そんなことをもう半年も続け、季節はすでに春から秋に変わっていた。

 

秋も深まったある日のこと、男はいつものように小さな花壇に売れ残りの花を植えながら、いつものように独り言を呟いた。

「何とも不細工な花壇になってしまったなぁ・・・売れ残った花達ばかりを植えてしまったからなぁ」

するとあの春の日のように、また背後から彼女の声が聞こえた。

「そう?良いのではないですか。流行から外れてしまっていても、多少の傷がついてしまっているお花でも、みな可憐に咲き誇ってますよ。それに見て」

彼女が指差した花壇の左端には、あの日、初めて彼女と言葉を交わした春の日に植えた、アリッサムが新しく白い小さな花を咲かせている。

「傷ついたお花だって、季節が変われば、また新しいお花をキレイに咲かせるでしょう?」

「そうですね、うん、確かにそうだ。あなたの言うとおりですね」

彼女は男の言葉に笑顔を返すと、振り返って花の陳列してあるフォードの荷台を眺めている。

「それにしても、このアリッサムを春先に植えたのをよく覚えていましたね?」

彼女の背中に問いかける。

彼女は少しだけ振り向くと「ふふ」と優しい笑顔を男に返し、秋の柔らかな斜光の中でその髪をキラキラとさせながら花を注文した。

「このオレンジのコスモスをくださいな」

「ありがとう!よし、少しですがサービスしますよ!」

代金の分よりも数本多くコスモスを、白い文字で【John’s Flower】と小さく印刷された淡いブルーの包装紙に包み、それを手渡しながら男は彼女に尋ねた

「あの、コスモスが・・・いえ、花がお好きなんですか?」

「ジョンさん・・・っていうのね。どうして、あなたはお花屋さんになろうと思ったのですか?」

ジョンは、自分の問いかけとは関係のない、彼女からの笑顔の質問に少しどぎまぎとしながらも

「自分は、ほら、そこの花壇のような男なんです。流行にも疎いし、不揃いで不細工なんですよ・・・そして売れ残りというのも一緒ですね。だから、大好きな花を売ることぐらいしか出来ないんですよ」

お手製の花壇を指差し、自嘲気味に苦笑いをしながら話す花売りの男に彼女は優しい笑顔を絶やすことはなかった

「では、枯れることなく、次の季節にはまたキレイなお花を咲かせるのですね」

彼女の手にしたコスモスは、秋の夕焼けに照らされてそのオレンジを、より輝かせているのだった。

                                        END

☆あ と が き☆

今日の午前中、開店したてのお花屋さんが、ご自分のお店とは関係のない街路樹の植え込みの雑草を摘み取っているのを見て、この物語を思い付きました。

もちろん雑草には何の罪もないけれど、限られた土の養分で街路樹の緑を保つには大切なことなのでしょうね。

花壇にも文字通りそこにあるはずの花が枯れてしまい、雑草だけが生えてしまっていては寂しいでしょう?

そして、この物語はあるお友達に捧げるものです。
しかしながら、登場する人物のお名前・設定などはフィクションですのでご了承下さい(^-^;)

ちなみにアリッサムは春と秋に小さくて可愛い白いお花を咲かせます。

オレンジ色のコスモスは実際に存在します。
日本のある大学の研究・品種改良によってオレンジのコスモスは実現したんですよ。
なので、品種名はキャンパスオレンジの名がついています。

いかがだったでしょうか?
PSUとは関係のない物語ですけど、たまにはいいですよね?(*^-^*)

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コメント

いつもより早く目が覚めたジョン平。
何気にノートPCに登録してあるお気に入りの各ブログを見ていた。
その中に小説もあったのだが、寝起きで読む気が無く眺めただけで次のブログに行こうとした。
するとジョンという名が目に入った。
「俺と同じジョンって名のつく男の話か」
読む気の無かったジョン平は、ただそれだけの理由で小説を読み始めた。
読み終えたジョンは、なぜかあくびでは無い涙を目に浮かべながら
「このジョンも恋してるのかな」
「キャンパスオレンジ・・・。今度探してみようか。」
そう呟き、2度目の眠りについた。

投稿: ジョン平 | 2007年8月23日 (木曜日) 05時45分

なんか・・・なんか・・・


頑張ります!!(*´д`)ゞ

投稿: イースレイ | 2007年8月23日 (木曜日) 12時52分

暖かいお話ですね^-^

こういう雰囲気好きだな~静かそうだし(´ー`)

ハルルさんらしさがすごいでてると思います。

よし、ぼくも消えちゃったけどもう1回書いてみよう(`・ω・)

投稿: ギンジロー | 2007年8月23日 (木曜日) 16時30分

優しい気持ちになるというか、いいよね、こういうお話。

お疲れ様です!

投稿: ジロー | 2007年8月23日 (木曜日) 19時33分

こんばんは~。

心がほんわかするお話ですね。
雰囲気もいいですし、素敵なお話だなぁ~と思って読ませて頂きました。
これを読んでいると、私も何か書きたいなぁ~と思わされます。
これからも楽しみにしていますね。

投稿: なのは | 2007年8月23日 (木曜日) 19時35分

すごくあったかい気持ちになるというか・・・ふぅっと力が抜け、安心感に包まれるような、そんなお話です。

やッヤバイ・・・

物書きとしてのリビドーを刺激されてしまった・・・・!!

「グリーン・ディステニー」終わったら短編書いてみようかなぁ。イルミナスまで・・・

投稿: ムー | 2007年8月23日 (木曜日) 23時26分

なんとなく、最初の男性にもう一つの
エピソードがありそうな話ですね(・ω

日々の暇に?といいつつも、ちょっと
切ない話のにほひがします。

投稿: |ω・) | 2007年8月24日 (金曜日) 00時04分

切ない感じ、私も思いました。
でも心がほんわかになるお話ですね~
仕事でイライラしてたのが消えました、ありがとう。
また20時までがんばるか~

投稿: 雪華 | 2007年8月24日 (金曜日) 10時22分

皆さんコメントありがとう(^o^)丿

また、こういったショートストーリーも掲載したいと思います(*^-^*)

投稿: ハルル | 2007年8月25日 (土曜日) 22時10分

読んだよ!
うん、こう。ハルルさんらしいというか
小粋なジョークを飛ばすのがクールだった!
ハルルさんの作品の登場人物はハルルさんの心の鏡だからね!
こんな大人の雰囲気もいつかボクも味わってみたいなぁ。

なんて、1年後に感想を書くなんてね。
この物語の花達も、また感想を書いて、ハルルさんの心に花が咲くかな…!かんそうだけにドライフラワーって意味じゃないんだからあああああ!!!

投稿: コロ | 2008年9月 3日 (水曜日) 21時35分

もう一度読んでみました!
1年前よりはきっと内容を理解できた・・・と思う。
やはりボキャブラリーの多さ、博識な所が随所に見えて感服です。
それもあって表現方法が新鮮な感じがして、読んでてとてもワクワクしました。
本をたくさん読んでる、写真が好き、そういうところも現れてるような・・・そんな気がしました。

まとめると、すげえええええええ!!!

投稿: ギンジロー | 2008年9月 3日 (水曜日) 22時53分

>コロさん
読んで頂けたのですね、ありがとう(*^-^*)
ドライフラワー・・・ですか?
う~ん、コロさん3点(>_<)

>ギン君
あ、内緒事項が含まれてますよ!
お仕置きが必要かしら・・・。

投稿: ハルル | 2008年9月 4日 (木曜日) 22時46分

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